2016年8月30日火曜日

西村幸祐著『日本人に「憲法」は要らない』を読む

読後、まづ思ったことは、この新書を日本中の義務教育の場に、政府と文科省が無償で配布をして、これを教科書として日本国憲法の授業をカリキュラムの一環として実施したら良いということでした。これこそが、日本国の教育の根幹となる筈のものだと思いました。

それほどに、誰にでも大変わかりやすく、そしてツボを押さえて外れることなく、世界史の中での(ということは欧州の歴史の中でのということになりますが、そのような)憲法(constitution)の歴史と、日本にもともとある憲法という言葉が日本書紀(西暦720年編纂)に既に初出であり、且つ聖徳太子の17条憲法から解き始めて、日本の大東亜戦争敗戦後にGHQが国際法違反を犯してまで一方的に日本国に押し付け、みづからの姿を隠すような策を弄したことと、その後の愚かなる日本人の姿が、何のイデオロギーとも無縁に、そして著者の機智を以って、淡々と明朗に書かれております。

著者のあとがきにある憲法第9条第2項に次の一項を更に追記するというのは誠に名案です。

《前項の目的を果たすため、我が国は国防軍を保持する。》

もし欲をいえば、今の翻訳の偽憲法の原文たる英語の、(著者の書いているように)10日間のやっつけ仕事で憲法の専門家も入れずに急ぎ作成した其の、英語の日本国憲法(!)をも、一緒に合わせて掲載をしてほしいと思いました。
何故ならば、いつも論争の種になる憲法第9条第2項の原文は、次のようになっており、その日本語訳は、主語を曖昧にして、恰も日本国が戦争を放棄したかのごとくに見せかけているからです。さすがに、この1行を書いた当人も、近代国家成立の要件の一つである交戦権を、自分一人の意思で否定することはできなかったという証左です。

英語原文:
In order to accomplish the aim of the preceding paragraph, land, sea, and air forces, as well as other war potential, will never be maintained. The right of belligerency of the state will not be recognize.


日本語訳:
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

今、このように引き写しても、誠に愚かな条文だという以外にはない。これを否定しない自称憲法学者がいたら、それは間違いなく似非(えせ)憲法学者である。
何故ならば、このレビューを読むあなたは、上の英語原文の国家という文字が、英語原文では其れ以外の条文ではthe Stateと最初のSが大文字であって日本国という意味であることに対して、この国家はthe stateと小文字のsで書かれていて、これは近代国家一般の意味で使われていることになることにお気づきでありましょうから。

そうであればこそ、ここに次の三つの偽善と虚偽の理由が明らかになるのです。

1。上の第2項の主語は、和訳にあるような日本国ではないこと。
2。交戦権を、しかし、近代国家一般が放棄することなどありえないので、その嘘を正当化するために、一文を受け身として、will not be recognized、認められないとしたこと。従い、
3。「国の交戦権は、これを認めない。」は誤訳であること。誰か、憲法学者に正しい和訳を依頼してみると良いでしょう。


次回版を重ねるときには、是非英語の原文も入れてもらいたいと切に願うほどの良書です。ご購読をお勧めします。できれば、友人知人にもおすすめください。そして何よりも、あなたのお子さんに。あなたのお子さんの将来のために。

4 件のコメント:

  1. そもそも日本国憲法は、GHQの憲法学の素人達が1週間程ででっち上げ、天皇の訴追をチラつかせて日本国に押し付けた代物で、自然権である自衛権すら否定する欠陥品ですね。それを御本尊とする日本の殆どの憲法学者達は似非憲法学者以外に成りようがないのではないでしょうか?
    彼らが徒党を組んで工作するのは、彼らの自己保存本能の為せる業です。ある意味、哀れなものですが、実に迷惑な話ですね。

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    1. SHさん、コメントありがとうございます。全くその通りですね。こういう知識がひろく国民の間に共有できれば、日本の国もよくなりますよ。今回の参院選でも十代以降の若者たちの40%が保守であったということは、ネットの力だと思います。このブログも微力ならがそのお役にたてればとおもいます。

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  2. 9条に関しては幣原氏が提案してアメリカ側に渡り、アメリカに押し付けられるという構造ですよ。
    また、我が国でも松本烝治・芦田均等の法学者の間での論争、そして彼らとGHQとの対決があって、結果的には敗北し押し付けという不本意な形になりましたが、少なからず日本人の尽力があったから、解釈で個別的自衛権の容認までは確実に修正できる形(先生の仰る「嘘」で御座います。)になったわけです。
    実はここで9条改正までの糸口は既にあったのですが、今まで失敗してきたのです。
    この失敗の原因は何でしょうか。1つは先生の仰るように米国の後ろ盾、もう1つは日本がその中で平和であり続けたことです。
    ここで思うことには、一足飛びに国防軍創設は言えないのではないでしょうか、ということです。先生の教育への言及は、逆説的に先生の理想的な教育は実施されていないということです。それでは国民の過半数には理解されないし改正も遠のきます。

    そこで卑見ですが、自衛隊の立場の明記にとどめるのが得策かと思います。
    どう考えるかは自由なので、とやかく申しあげるつもりはございません。ただ、先生の展望をよく知りたいのです。
    失礼ながら加えて申し上げますが、9条だけ否定しても現行憲法の否定とまでは言えませんので、著書のあらすじに留めず、現行憲法の9条以外の箇所への先生の評価も拝読したいと思いました。
    先生のこれからの書評に期待しております。

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  3. KYY YYKさん、コメントどうもありがとうございます。

    先生とおっしゃっているのが最初西村幸祐氏のことかと思いましたら、わたくしのことなのですね。いや、そんな敬称をつかってくださって、これもありがたうございます。しかし、わたくしは「先生と呼ばれるやうな人でなし」、岩田さんで結構ですので、以後おご遠慮なく。ネットの時代です。論を尽くすには、superflatでまいりませう。

    さて、私の考えは、日本国憲法を廃して、大日本帝国憲法にもどるというのが、本筋ではないのかということです。著者によれば、確かに今の憲法も形式上はその形を取らなければならなかったことが、そのことの正当性(おそらくは憲法学上の適切な学術的な用語があることでせう)を示しているのではないでしょうか。

    さて、第9条第2項に絞って批評しましたのは、それがこれまで一番問題になっていた条文であることと、書評をする上では紙幅に制約がありますから、焦点を絞って論じたいと思ったからなのです。

    そして何よりも、the Stateとthe stateのこの言葉の使い分けに隠れた誤訳と偽善の訳にかねがね嫌悪を抱いていたからです。

    私の書評の冒頭に書いた教育への言及は、逆説的に私の理想的な教育は実施されていないということだというご指摘は、その通りですね。そうして、それでは国民の過半数には理解されないし改正も遠のくということであれば、やはり(過信してはいけませんが)ネットの威力を行使するということではないでしょうか。先の参院選の若年層の保守党への投票率を見ると、そのように思います。たとえ、今の自民党が本当に保守党であるかどうかの議論はまた別にあることは承知の上で、そういうのですけれども。

    憲法の改正には段階を踏むべきことが決められていますので、すぐに今日明日とはいかないでしょう。しかし、そのような時間の長さを取っ払って、論理だけで考えますと、国防軍創設を第9条第2項の後に追記することは、全く論理にかなったことだと思います。さて、それをいつ実現するかというのは、政治の日程の問題で、これが緊急を要することはいうまでもありません。それ故の、著者の本書の刊行ということなのでしょう。

    KYY YYKさんの自衛隊の立場の明記にとどめるというお考えも、このように考えてまいりますと、この線に沿ったお考えになっていると思いますが、どうでしょうか。

    第9条以外の英文原文憲法の条文への評価についても、機会あらば述べることにいたしましょう。しかし、そうしてみれば、著者がこの本で述べているように、一体憲法とは何か?という問いに戻る以外にはありません。

    最後の励ましのお言葉、これも、誠にありがとうございます。私もKYY YYKさんと同じように、西村幸祐氏の読者の一人として、また同氏の書籍が刊行されたならば筆をとり、わたくしの意見も述べることにいたします。

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